月に魔法をかけられて
「おい、ここはどうだ?」

隣の男性が運転席の男性に携帯を渡す。

「そうだな。少し距離はあるが人もいなさそうだし、ここならバレないだろ。とりあえずナビ入れるわ」

運転席の男性が車をハザードをつけて車を停める。

ガチャン──。

車を停めた途端、何かが下に落ちた音がした。

「あっ、やべぇ。ハサミが落ちた。くそっ。取れねぇ」

隣の男性が手を伸ばしながらシートの横に手を入れてハサミを取ろうとしているけれど、引っかかっているのかなかなか取れないようだ。

「おい、ちょっとドア開けて。ハサミがひっかかった」

運転席の男性がナビを入れながらカチャッとドアロックを外す。隣の男性がドアを開けてハサミを探しはじめた。そっちに気を取られ、私を掴んでいた手の力が緩み、一瞬隙ができる。

今なら逃げれるかも──。

私は音を立てないように鞄のバッグハンドルに手を通して、手首にくるっと巻きつけた。

幸いさっきのカーディガンが鞄の上に置いてあるので、私が鞄に手を動かしたことは気づかれていない。
私は力いっぱい掴まれていた腕を振りはらうようにして、なんとかドアを開け、車から飛び出した。

飛び出した瞬間、地面に身体がドンと打ちつけられ、ゴロゴロと転がってしまう。タイツがどこかにひっかかり、あちこち擦り剥きながら大きく破れた。
私はすぐに立ち上がると、とにかく走った。

「おい、逃げたぞ! 待て!」

「お前、早くドアを閉めろ!」

男たちの焦る声と共に後方からバタンとドアの閉まる音が聞こえた。
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