月に魔法をかけられて
私は走りながらとにかく隠れることができそうな場所を探した。コンビニや住宅があれば助けを求めて入ることもできるのに、ここがどこなのかわからないけれど、街灯が少なく、すぐ横からは波の音が聞こえ、海が見える。

もう一度捕まってしまったら何をされるかわからないので、車が通れそうにない細い横道に入り、とにかく走った。

途中、靴が片方脱げてしまい裸足のまま走る。
裸足で走り続けることで、足の裏に石や突起物が刺さり、激痛に襲われた。それでもどこか隠れる場所がないかと必死で探す。すると大きな公園の駐車場のような場所が見えてきた。

車はまばらだけれど、植樹がされているので、隠れることができるかもしれない。私はその公園をめがけて走ると、鬱蒼と立ち並ぶ背の低いツツジの木の間に入り込み、身を潜めた。

鞄の中からスマホを出し、履歴から彩矢を探す。
恐怖と震えから、思うように手が動かない。
震える手でなんとか画面をスライドさせながら、彩矢の名前をタップした。

彩矢。早く出て……。
お願い……。

ワンコールですぐに彩矢が出た。

「美月、今どこにいるの? 連絡ないから心配したじゃん」

彩矢の声が聞こえ、安心から涙が溢れてくる。

「あ、あ、あ、彩矢……。た、た、助けて……お願い………」

「美月、何があったの? どうしたの? どこにいるの?」

彩矢の声が急に私を心配する声に変わる。

「どこに……どこかわからない……。だ、誰かに連れ去られて………。こ、怖い……怖いよ………彩矢………」

するとピカッと車のヘッドライトが光った。
さっきの2人組の車がこの公園に入ってきたようだ。
少し先の方で車を停めて2人が車から降りてくる。

「おい、そんなに遠くまでは行ってないはずだ。探せ」

「こんなところにいるか? さっきの倉庫の方が怪しくね?」

2人でぶつぶつ言いながら私を探している。

「美月? 美月何があったの? どこ? どこにいるの?」

手に持っていたスマホから彩矢の声が聞こえてきて、私は慌ててスマホを切った。
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