月に魔法をかけられて
「美月ちゃん、昨日よりだいぶ良くなってきたね。心臓の音も落ち着いている」

「ありがとうございます」

「昨日の夜、君がここに運ばれてきたときはかなりうなされていてね。昨日は鎮静剤で眠ってもらったんだ。だからちょっとまだ心配でね。もう2日くらいここに泊まることはできるかな?」

直人さんが私をじっと見つめながら尋ねる。

「実は今日から名古屋の実家に帰ることにしていて……」

「そっか。実家に帰るのを遅らせることはできない?」

お母さんには今日帰るって言ってるし。
困ったな……。

そう考えていると瞳子さんが横から口をはさんだ。

「美月ちゃん、私からもお願い。ここにいてもらえないかしら。美月ちゃんを襲った犯人もまだわからないし、もし万が一また美月ちゃんに何かあったらって思ったらすごく心配なの。ご実家で過ごすのも美月ちゃんのご両親がいて安心だと思うんだけど、身体のこともあるし、できれば2日と言わずこのお休みの間はここにいてもらえないかな? ご実家には改めてゆっくり帰ることにして。ご実家に帰るお休みなら私から壮真に言ってあげるから。壮真、いいわよね?」

瞳子さんは私に対する笑顔とは真逆の顔をして、キッと睨みながら副社長を見る。

「それは全然構わないよ。犯人が捕まっていない以上、俺もその方が安心だし」

副社長も瞳子さんの話に頷いている。

「どう、美月ちゃん? 今回のお休みはここにいてもらえない? ご両親には私から事情をお話しするから」

瞳子さんが懇願するように私に視線を向けた。
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