月に魔法をかけられて
「えっ……?」

「ふくちゃちょうってだぁれ?」

何て答えようかと戸惑っていると、今度は副社長に向けて啓太くんが尋ねた。

「ねぇ、そうま。ふくちゃちょうってだれなの?」

「ふくちゃちょうじゃねーよ。副社長だよ。副社長とは俺のことだよ」

副社長が笑いながら啓太くんの柔らかいほっぺたをぷにぷにとつつく。

「ちがうよー。そうまはふくちゃちょうじゃないよ。そうまだよ」

「そうだけどな。でも俺のことなんだ。啓太がもう少し大きくなったら分かるよ」

「おなまえはきちんとよびましょうって、ほいくえんのせんせいがいってたよ」

「そうだな。啓太、ちゃんと保育園の先生の言うこと聞いてるな。えらいぞ」

副社長に褒められ、啓太くんが嬉しそうにニコっと笑う。

そしてそのまま、私の方を向いた。

「みづきー。ふくちゃちょうじゃないよ。そうまだよ。おなまえはまちがえたらだめだよ」

「け、啓太くん……」

頬が赤くなるのを感じながら副社長を見ると、副社長とバッチリ視線が合ってしまった。

「美月、保育園の先生が言ってるように名前はきちんと呼ばないといけないらしいぞ。副社長じゃなくて、壮真だからな。啓太に指摘されないように間違えるなよ」

副社長が笑いを堪えながら、啓太くんの頭を撫でる。

「啓太、お前なかなかいいこと言うじゃないか。お前、いいヤツだな」

「ぼくはちゃんとほいくえんのせんせいのいうこときいてるよ」

「そうかそうか。えらいぞ。啓太! ご褒美に啓太の好きなケーキとアイス買っていくか?」

「けーきとあいす? やったぁ」

副社長と啓太くんは楽しそうに会話を続けている。

私はそんな2人を見つめながら、ドキドキと心臓が音を立てるのを必死で隠すように買い物を続けていた。
< 228 / 347 >

この作品をシェア

pagetop