月に魔法をかけられて
ショッピングモールに到着すると、大晦日のそれも18時過ぎということもあって、ものすごい人で賑わっていた。

副社長が啓太くんを抱っこして、私がカートを引きながらスーパーの中を歩いていく。

「美月、酒コーナーはあっちみたいだぞ」

副社長が指を差しながら私に告げた。

ふと、副社長と結婚して子供を連れて買い物をしているような錯覚に陥り、心臓がドキンと飛び跳ねた。

「は、はい……」

チラッと副社長に視線を移すと、今度は抱っこした啓太くんに楽しそうに話しかけている。

(副社長がお父さんになったらこんな感じなのかな……)

そんな思いが頭の中をよぎり、慌てて首を振った。

ドキドキと早まる鼓動を静めながら、カートを押してお酒コーナーへと移動する。

「ふ、副社長、瞳子さんの言っていたお酒ってこれですかね? いや、こっちかな?」

日本酒がずらりと並べられたところから、スパークリングのお酒を手に取る。

「スパークリングの日本酒だったらなんでもいいよ。どうせあいつ、味なんてわかんないんだから」

「でも瞳子さんってお酒が強いから……。やっぱりいろんな種類を買っていこうかな……。副社長は何かお好きなお酒ありますか? どれにします?」

私がお酒を手に取りながら確認していると

「ねぇ、みづきー。ふくちゃちょうってだぁれ?」

啓太くんが副社長の腕の中から手を伸ばし、私の肩を掴んだ。
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