月に魔法をかけられて
絵奈さんのことを忘れていたわけじゃない。
わかっていた。
わかっていたけれど──。

副社長のそばにいることが心地よくて、もっとそばにいたくて、副社長が誰を見ているのかなんて考えないように、見ないようにしていたのだ。
それに──。
もっともっと副社長のことを好きになっていく自分が怖くて、自分の気持ちの大きさに気づかないふりをしていた。

おみくじを引いたときはものすごくうれしかったのに、私の願いもおみくじも内容も何も叶わないという現実に、心の奥が痛くて痛くてたまらない。
無意識にコートの上から胸のあたりをギュッと掴む。

「どうした、美月?」

急に黙り込んだ私の顔を心配そうにのぞき込む副社長。

「い、いえ……。まっ、待ち人、来たらいいですね……」

視線を泳がせながら心にもないことを口から吐き出す。
本当は絵奈さんなんて副社長のところに来なきゃいいと願っているというのに……。
こんな酷いことを思っているにもかかわらず、副社長は私に優しい笑顔を向けてくれる。

「ありがとな、美月。本当にこのおみくじに書いてある内容が叶うといいよな……」

切なそうな、だけど柔らかな瞳をして、ふわりと優しい手が私の髪の毛に触れる。

副社長、そんなこと言わないで。
私は……副社長の願いなんて叶わなきゃいいと思っているんだよ……。


いつか、私のことを好きになって、私のことだけを見てほしいと願っているというのに……。
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