月に魔法をかけられて
7時30分を過ぎると、直人さんと啓太くんが起きてきてリビングにやってきた。

「あっ、みづきだぁ」

朝から元気よく抱きついてくる啓太くん。

最初はこの元気の良さに戸惑っていた私も、ここ数日ですっかり慣れっこになってしまった。

ぎゅうーっと啓太くんを抱き締め返しながら、「啓太くん、おはよー」と優しく頭に触れる。

「美月ちゃん、ごめんね。朝から啓太、元気過ぎて疲れるでしょ……」

そんな私たちの様子を見て苦笑いをする直人さん。

「ほんとっ。美月ちゃんごめんね。ほら、啓太。壮真を起こしてきてくれるかなー」

瞳子さんも微笑みながら啓太くんに話しかける。

啓太くんは瞳子さんの言葉を聞くと、「そうまー」と大きな声で呼びながら、副社長が寝ている部屋へと走って行った。

「男の子って、小さくてもこんなに元気なんですね……」

私はふふっと笑みを零しながら、朝から全開の啓太くんのパワーを改めて感じていた。

「そうよー。寝てるときはほんとに可愛くて天使なんだけどね。起きてると、パワー全開の小さな怪獣……。ほんと、私たちが疲れちゃうわ……」

そんな瞳子さんを温かい目で見守るように直人さんが口を開く。

「おそらく……、啓太は瞳子に似たんだろうねぇ。俺が小さいときは、物静かな子だったと聞いてるから……。美月ちゃん、瞳子にそっくりだと思わない? 何でもパワー全開で行くところ……」

直人さんが肩を揺らしながら笑っている。

「そ、そうかも……」

私も口を押えながら直人さんと一緒に笑う。

「こら、2人とも! そこで私の悪口を言ってるでしょ! ちゃんと聞こえてるんだからねー!」

瞳子さんが悪戯っぽくジロっと睨みながら、お椀にお雑煮をよそっている。

テーブルの上には、海老や数の子や鮑、蟹や栗きんとんやだて巻きなど、重箱に入った豪華なおせち料理が既に3つ並べられており、鶏肉や大根、しめじや三つ葉と一緒に四角いお餅の入ったお雑煮がそれぞれの椅子の前に置かれた。

啓太くんのお雑煮だけは、お餅が小さく切られ、とっても柔らかく煮込まれている。

私たちの前では仕事もバリバリとして憧れの存在の瞳子さんだけれど、啓太くんに対する母親としての姿と深い愛情を感じて、私は心がほっこりとした気持ちになっていた。
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