月に魔法をかけられて
「なあ美月……そんなに緊張するなよ。なんだか俺が悪いことして美月を連れて帰ってるみたいだろ……」

「えっ?」

目を丸くしながら運転している副社長に視線を向けると、副社長はプッと吹き出して声を出して笑い始めた。

「さっきから顔を真っ赤にしたと思ったら、いきなり首を振り始めたり、両手で顔を隠したり、表情がコロコロ変わりすぎておもしろすぎる……」

そう言ってまた大笑いを始める。

「だ、だって………」

さっきまでの妄想を副社長に話すこともできず、恥ずかしくて俯いてしまう。副社長は運転を続けながら片手をハンドルから離すと、私の手を握り、指を絡めた。

「美月、昼間美月のこと抱きたいって言ったけど、そんなすぐにはしないから安心して。美月の緊張が解けるまで待つつもりだから。俺、美月を大切に抱きたいんだ。俺の身体で美月にたくさん感じてほしいし、俺も美月の身体で同じように感じたい。だから無理にはしたくないから。だけどその代わり……キスは制限なくたくさんするけどな」

意地悪っぽい表情を向けてにこっと笑う。
聞いていて恥ずかしくなるようなエッチなセリフなのに、こんなにも副社長に愛されていることが感じられ、緊張で張り詰めていた心が緩やかに解き放たれていく。
気がついたら目から涙がこぼれ落ちていた。

「何を泣いてるんだよ。運転中だから涙を拭いてやれないだろ……」

「壮真さん……ありがとう……」

私は握られた手にもう片方の手を重ね、絡まれた指をぎゅうっと握り返した。
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