月に魔法をかけられて
寝顔もかっこいいな……。

布団をかけ直したあと、間近で見る綺麗な寝顔に思わずカーペットに座り込んで見惚れてしまう。
つい触れてみたい衝動に駆られ、その気持ちを抑えるようにぎゅっと拳を握った。

寝室に戻って早く着替えなきゃと思うのに、副社長のそばにいたくて、なかなか立ち上がることができない。

ちょっとぐらい触っても大丈夫かな?
私もおはようのキスをおでこにしてみよっかな……。
まだ寝てるから気づかれないよね?

副社長の顔の前で何度も手を振り、本当に寝てるのかどうかを念入りに確認したあと、私は少しだけ身を乗り出すと、副社長のおでこにチュッとキスをした。

その瞬間、副社長の目がパチッと開き、視線が私に向けられた。

「あ、あ、あの、えっと……お、おはよう、ございます……」

飛び上がりそうになるくらいびっくりしながらも、キスをしたことを気づかれないように必死で平静を装う。

「あの、えっと、さ、さっき起きたらお布団が落ちていたので、か、かけようと思って……。起こしてすみません……。わ、わたし着替えてきますね……」

たどたどしい日本語を話しながら立ち上がろうとしたとき、副社長に腕を引っ張られ、私は布団の中へと連れ込まれた。そのままぎゅうっと抱きしめられる。

「そ、壮真さん………」

重なった身体から副社長の温かい体温が伝わってくる。

「美月……おはよ」

副社長は抱きしめたまま、まだ眠そうな低い声で私の名前を呼んだ。

「お……おはようございます……」

「なあ、さっき俺にキスしただろ?」

起きぬけの低い声が耳を掠める。

「えっ……?」

気づかれていないと思っていたのにバレていたことがわかり、瞬時に顔が赤くなり、恥ずかしさがこみ上げてきた。
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