月に魔法をかけられて
副社長が寝室から出て行ったあと、私はしばらくの間、ベッドに座ったまま動けなかった。

ドクンドクンと心臓が忙しなく動き、おやすみと言ってキスをされたおでこがとても熱い。

おでこにキスをされたとき、私の目の前には副社長の首元から覗く素肌が飛び込んできて、一瞬ドキッとしたあと、なぜか抱き〆てほしいと感じてしまった。

もう!
副社長が変なことばかり言うから、私まで変なこと考えちゃってるじゃん……。

速度を全く落とさない左胸のあたりをぎゅっと掴む。

あっ、そうだ……。

ブラジャーをしたままだったことを思い出し、私はそれを外すと、ベッドの中に入った。ほんのりと副社長のフレグランスの香りが鼻をかすめる。あの檜のような大好きな香りだ。私は副社長に包まれている感覚に陥りながら、次第に意識が遠のいていった。


今……何時………?

ぼんやりと見える時計に焦点を合わせながら、ゆっくりと起き上がる。時計の針は7時前を指していた。

いつの間にか寝ちゃってたんだ……。

大きく伸びをしたあと、そっとベッドから出て、音を立てないように寝室のドアをそろりと開けた。
しんと静まり返ったリビングのソファーの上では、まだ副社長が小さな寝息を立てて寝ている。
私はこっそりと寝室から出ると、洗面所へ行き、顔を洗った。

顔を洗い終えたあと、またこっそりと音を立てないようにリビングを通り抜ける。途中、副社長の布団が少し下に落ちかかっていることに気づき、静かに布団を掴むと、副社長を起こさないようそっとかけた。
< 276 / 347 >

この作品をシェア

pagetop