月に魔法をかけられて
*****

手に持っていたスマホが急に震えだし、私はびっくりして目を開けた。

も、もしかして私、寝てたの?
うそでしょ……。副社長は?

急いでベッドの上に視線を向けると、副社長はまだ眠ったままだった。

よ、よかった……。
副社長が起きる前に早くここから出なきゃ!

私はほっと胸を撫で下ろしながら、ホテルのメモ用紙を手に取った。


支払いは済ませてあります。
部屋の鍵だけフロントに返却をお願いできます
でしょうか。
よろしくお願いいたします。


そのメモをビジネスバックの横に置き、音を立てないように注意して急いで部屋を後にした。
フロントで予約していたエステをキャンセルすることと、鍵はチェックアウトまでに持ってくることを告げると、ホテルを出て足早に恵比寿駅へと向かった。

朝も早いせいか、人はほとんど歩いていない。
私は朝の柔らかい陽射しと、少し涼しくなった空気を感じながら、電車に乗り自宅へと戻った。
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