月に魔法をかけられて
「その噂ってみんな知ってるの?」

「私の耳にまで入ってきてるってことは、ある程度の人は知ってるんじゃないですか? 珍しく塩野部長も瞳子さんも難しい顔をしてましたもん。だから副社長の様子が心配になって、どんな様子なのかなって思ったんです」


今朝だって、さっきだって、副社長はいつもと変わらなくて、そんな素振り全然見せてなかった。

もしかして、副社長もこのことを知らないってこと?

いや、あゆみちゃんが知ってるってことは、きっと耳には入ってるはずだよね……。


それからあゆみちゃんはマーケの人たち話や、次の新しいコスメを企画している話などをしてくれたけれど、私は噂のことで頭がいっぱいで、何の話をしたのか全く記憶がなく、結局、普段なら完食しているカレーも、ナンが大きすぎて食べれないということにして、私は半分以上残してしまった。


ランチが終わり、自分の席へと戻ってきた後も、私は副社長のことが心配で仕方がなかった。

副社長は午後から取引先とのアポイントのため、外出中だ。

今、どんな気持ちで仕事をしているんだろう。

副社長の気持ちを考えると辛くて心配で、胸の奥が痛くて堪らない。

きっと心の中でいろんな葛藤を抱えているはずなのに、何にも言わず、ひとりでそのことに立ち向かっているのだと思うと、涙が浮かんでくる。

何かしたいのに、何もできない自分が悔しくてたまらなかった。


私が壮真さんにできることは何だろう……。
私ができる精一杯のことはしてあげたい。
壮真さんが私にしてくれたように──。



そして考えた私は、会社用のスマホを手に取ると、瞳子さんに電話をかけた。
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