月に魔法をかけられて
金曜日の午後3時。
そういえば秘書になって間もない頃、副社長はこうして金曜日の3時になるとどこかへ出かけていた。

秋から冬の間は出かけることもなくなっていたけれど、最近はまた金曜日の午後3時になると出かけていく。

いったいどこに出かけているんだろう?

彼女にでも会いに行くのかな? なんてあの頃はそんなことを思っていたけれど、こうして副社長と一緒に過ごすようになってからは、それは違うと感じている。

会食以外の日は毎日一緒にごはんを食べるし、週末は買い物に行ったり、お家で過ごすことがほとんどだ。

それに毎晩変わらず私に触れている。
これで浮気でもしてるものなら、世の中の女性はみんな騙されてしまうはずだ。

だから絶対に女性ではないと思うけれど、かといってそれ以外に思い当たることがない。

習い事?
業務中にそれはないよね……。
聞いたら答えてくれるのかな?

そんなことを思いながら、私は定時までに仕事を終わらせようと再び業務に取りかかった。


定時になり、会社を出て約束の時間の15分前にホテルに到着すると、既に副社長が1階のフロアで待っていた。

「美月!」

名前を呼ばれ急いで走っていく。

「すみません。お待たせしました」

「いや、俺もさっき着いたところだから。レストランは上だから、エレベーターに乗るぞ」

副社長はさりげなく私の背中に触れて優しくエスコートをしてくれながら、エレベーターに乗り45階のボタンを押した。
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