月に魔法をかけられて
「俺は美月のごはんの方が好きだぞ。特に最近は俺の好きな和食を多く作ってくれて感謝しているよ」


んっ?

確かにここ最近はあの噂のこともあって、少しでも元気がでるようにって壮真さんの好きな和食を多く作っていたけど……。

私がわざとそうしてるって、まさか壮真さん気づいてないよね……?


そんなことを考えながら微笑んでいると。

「こういうレストランの食事はたまに来るから美味しいんだよ。毎日だとやっぱり飽きてしまうし、美月のごはんがどうしても恋しくなる。でも美月にいつも作ってもらうばかりだと申し訳ないから、これから記念日にはこうして外で食事しような」


心が幸せで満たされる言葉にじわじわと涙が浮かんでくる。

私は副社長の深い愛情を感じながら、必死で涙を堪え口角を上げて頷いた。


続いて出てきた料理は、エスプーマ仕立てのキノコのポタージュや、ドライトマトと黒オリーブのクリームソースがかかった舌平目のムニエル、牛フィレ肉とフォアグラのポワレの黒トリュフソースなど、高級な素材ばかりのうえに、上品で、柔らかくて……。

全ての料理を目で、舌で、感動しながら味わった。

そして、デザートのフォンダンショコラとバニラアイス、コーヒーが運ばれてきたころには、とてもお腹がいっぱいになっていた。

お腹がいっぱいだと思いながらも、デザートは別腹ということで、フォンダンショコラにスプーンを入れる。

中からとろーりと濃厚なチョコレートが流れ出し、バニラアイスの冷たさと合わさって、これまたとっても美味しいデザートだった。


たくさんの美味しい料理と窓から見える夜景に満足しながら幸せな気持ちに浸っていると。

「美月、いろいろとありがとな。気を遣ってくれて」

「えっ?」

突然何の話かと思い、きょとんとしながら副社長を見つめる。

すると次の瞬間、副社長は驚くことを口にした。

「俺の噂を知っていたのに、いつもと変わらないように振舞って、何も聞かずにいてくれただろ?」

「き、気づいてたんですか……?」

口元に手をあてながら目を丸くする。

「ああ、気づいてたっていうより、教えてもらって知ったっていう方が正しいけどな」

副社長はそこでティーカップを手に取り、コーヒーをひとくち飲んだ。
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