月に魔法をかけられて
「啓太くん、久しぶり? 元気にしてた?」

幼い啓太くんの可愛さに、引き攣っていた顔が自然と笑顔になる。

なんだか3ヵ月見ない間に、お正月の時より身体が少し大きくなっている気がする。

そのまま抱っこをすると、ギュッと首に腕をまわしてきた。

「みづきだぁ。みづきだぁ」

あまりの可愛さに小さな頭を優しく撫でていると、スルーされた副社長が不機嫌そうに啓太くんのほっぺたをつっついた。

「おい啓太、俺に飛びついてきてたくせに、なんで美月のとこ行くんだよ」

「べぇー」

口から小さな舌を出して副社長に見せながら、楽しそうにきゃっきゃっと笑っている。

大好きな副社長に会えてとても嬉しいのだろう。

啓太くんのその無邪気さに、ほんの少し緊張がほぐれてきた。


「壮真、美月ちゃんと結婚するとなると気持ちに余裕ができるのね。啓太に対してあれだけやきもち妬いていたのに……」

玄関から顔を出した瞳子さんが、ニヤニヤと副社長に視線を向けながら私たちの方へ歩いてきた。

「あっ、瞳子さん、お久しぶりです」

瞳子さんの顔を見て安心するように笑みが零れる。

「美月ちゃんいらっしゃい。今日はね、朝からずっと2人を待ってたのよ」

「えっ? 朝からですか?」

「そうよ。もうね、私はこの日を楽しみにしていたの。やっとよ。やっと。今日はほんとに嬉しいわっ」

啓太くんを抱っこしている私を、その上から抱き締める。

「ママ、いたいよー」

啓太くんが嫌がるように足をバタバタと動かした。

「あらごめんごめん。啓太、ママのところにいらっしゃい。美月ちゃんはこれから壮真と一緒にじいじとばあばにお話があるからね」

瞳子さんが啓太くんを私から引き離そうとするのに、啓太くんは私にしがみついて離れない。

「やだぁ。みづきがいいー」

「啓太、お話が終わったら美月ちゃんに遊んでもらいましょ。それまでママのところにおいで」

「やだぁやだぁ。ぼくはみづきがいいー」

「啓太! 言うこと聞かないとママ怒るわよ。言うこと聞かない子はお家に帰ってパパにお願いして注射してもらおうかな」

瞳子さんが啓太くんをキッと睨みつける。

啓太くんはほっぺを膨らませると、私から降りて瞳子さんに両手を伸ばした。

瞳子さんが啓太くんを抱きあげる。

すると。

「なんだかとっても賑やかで楽しそうねぇ」

瞳子さんに似た品のある綺麗な女性が、玄関のドアから顔を出した。
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