月に魔法をかけられて
車が大きな白い豪邸の前に到着した。

大きくてお洒落な鉄製の門扉がそびえ立ち、その隣にはこれまた大きなシャッターが閉まっている。

(もっ、もしかして、ここなの?)

あまりの大きさに、目を見開いて眺めてしまう。

まるでテレビの豪邸特集にでも出てきそうな、エレガントで、見るからにセキュリティーもしっかりとしたお家だ。

副社長はポケットから小さなリモコンを取り出すと、ピッとボタンを押した。

ガチャンという音とともに大きなシャッターが動き始める。

半分くらい開いたところで、2台の高級車が見え始めた。

「えっ? マジかよ。瞳子が来てるじゃん……」

車を見た副社長がぼそっと呟く。

そう言われると2台のうちの1台は、前に瞳子さんの家で見た副社長と同じ「L」のマークのSUVの車だった。

車が2台停まっていても、まだ余裕でスペースのある駐車場。

副社長はいとも簡単に空いたスペースに自分の車をバックで停めると、エンジンを切った。


はぁ……。
とうとう副社長のお家に着いてしまった……。

気持ちを落ち着かせるように、ワンピースの生地をギュッと掴む。

私は目を瞑って静かに息を吐くと、ショルダーバックと手土産を持って車から降りた。

副社長の後ろについて、大きな門の前に向かう。

副社長がセキュリティを解除して門を開けると、少し先に大きなドアが見えてきた。


あー、緊張する……。

緊張がピークに達して、顔が引き攣り始める。

なんとか笑顔を作ろうとほっぺたに手を当てて動かしていると。

ガチャ──。

玄関のドアが開き、「そうまだぁー」と子供の声が聞こえてきた。

(あっ、啓太くん……)

玄関から飛び出してきた啓太くんが、副社長に向かって走ってくる。

「おう啓太、元気だったか?」

副社長が笑顔で抱き上げようとした瞬間、

「んっ? みづきぃ?」

私に気づいた啓太くんが、副社長の横をするっと通り抜け、後ろにいた私に身体全体で抱き着いてきた。
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