月に魔法をかけられて
「美月、その話ってどこで聞いたんだ?」

「えっと、前にレセプションパーティーでお会いした吉川さんというご老人のお話しましたよね? 先代の社長とご友人で、社長のことも壮真さんのこともご存知だといわれていた方です。その吉川さんが教えてくださいました」

「吉川? ああ、そう言えば前に言ってたよな。親父知ってる?」

「いや、知らないな。吉川といって思いつくのは、瞳子と直人くんくらいだろ」

「だよな……。誰だろ? じいちゃんに聞いたら分かるかな?」

「そうね。おじいちゃんの友達っていうんだから分かるんじゃない? そろそろ帰ってくるはずだけど……」


そのとき、ガチャ──とリビングのドアが開いた。

右手に光沢のある高級そうなオシャレな杖を持った品のいいおじいさんがリビングへと入ってくる。

「あら、お義父さんお帰りなさい。今、壮真のお嫁さんになってくださる方がいらっしゃってるの」

お義母さんが椅子から立ち上がって、おじいさんを支えるように腕に手を添えた。

「おじいちゃん、ちょっと聞きたいことがあるの。吉川さんって人知ってる?」

瞳子さんの声に顔を上げたおじいさんの顔を見て、私は「あっ」と口元を手で押さえた。

「どうした、美月?」

副社長が横から私の顔を覗きこむ。

「よ、吉川さん……」

「吉川? 何言ってんだよ。これはじいちゃん。ルナ・ボーテの会長だよ」

私がびっくりしながら目を見開いているのを見て、副社長が「あっ!」と声を上げた。

「もしかして……、じいちゃんが吉川? まさか俺たちに隠れてレセプションパーティーに来てたのかよ」

ニヤニヤと笑いながらおじいさんを見る副社長。

その声に「あー!」とみんなが笑いだした。

「なるほど。そういうことね。おじいちゃん、隠れてレセプションパーティーを見にきてたんだ」

「えっ? お父さん、あのパーティーに来てたんですか?」

バツが悪そうにそっぽを向く会長。

「なんでまた吉川なんて瞳子の名前使って嘘ついたんだよ。俺はルナ・ボーテの会長だって言えばいいだろ? 美月から聞いても誰だかさっぱり分からなかったよ」

「いや、まあ、あれだ。お前のことが心配だったんだよ。海外から戻ってきてきちんと仕事をしてるのかとか、ちゃんと副社長としてやっているのかとか、いろいろ気になってな。でも壮真良かったじゃないか。こんなに可愛くて優しいお嬢さんがお嫁さんに来てくれて。美月さんはな、わしが疲れて椅子に座っていたら、体調は大丈夫ですか?と気遣ってくれて、冷たいお茶まで持ってきてくれてな。本当に優しいお嬢さんだよ。いいお嫁さんがきてくれて、わしも安心じゃよ」

はっはっはーと豪快に笑う会長。

それにつられて全員が口元を緩め始めた。
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