月に魔法をかけられて
タクシーが停車し、秘書はすぐに車から降りると、

「送っていただいてすみませんでした。今日はありがとうございました」

と頭を下げた。

「ああ、お疲れ」

「お気をつけて。お疲れさまでした」

秘書の言葉が終わると同時にバタンとドアが閉まり、タクシーはそのまま発進し始める。


違った一面を見ることができた?
笑った顔?
普通笑うだろ……。

どういうことだよ。
俺をロボットか何かとでも思っているのか?
あの秘書……。

それにしても、やっと秘書に礼を言えたってことは、俺も相当ヘタレだな……。

聡のことは笑えないってことか……。

俺は流れゆく景色に視線を移しながら、自分と聡のヘタレぶりにフッと笑みを零していた。
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