月に魔法をかけられて
「そうなの。実はね、最初この話を聞いたとき、山内さんを推薦したのは私なの」

「チーフが……?」

ますます意味がわからない。

上層部からの話?
チーフが私を秘書に推薦?

「上層部から秘書にふさわしい人材はいないかって話が塩野部長にあってね。その話を聞いて私が山内さんはどうかって塩野部長に推薦したの。マーケティング部にとってはもちろんのこと、私たちにとっても山内さんが抜けるのは本当に痛いけど、きちんと仕事もできて、気配りもできて、補佐もできるって考えたら、山内さんしか思い浮かばなくてね」

瞳子さんはごめんねと言うように少し表情を歪めた。

上層部が秘書を探してるっていうことはわかったけど、うちには秘書部があるよね?
秘書部の人がいるのにその人たちじゃダメなの?

「上層部の方が秘書を探しているのはわかりましたけど、うちには秘書部がありますよね? 秘書部の方の中にたくさんいらっしゃるのではないですか?」

「そうなんだけどね」

そう言って瞳子さんと塩野部長は顔を見合わせた。

「実はね、もうひとつ言っておかないといけないことがあるの」

瞳子さんは少し顔を曇らせながら、言いにくそうに口を開いた。

「実は、山内さんが秘書をするのは副社長なの」

「えっ……。副社長……ですか……?」

思ってもみなかった返答に、私はまたしても目を見開いて聞き返した。

「そう、副社長」

塩野部長と瞳子さんの顔が「申し訳ない」という表情へと変わる。

「あ、あの、副社長って……。4月から来られる社長の息子の副社長のことですか?」

「そう、藤沢壮真副社長よ」

瞳子さんはなんとも言えない表情で笑みを浮かべた。
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