月に魔法をかけられて
「いや、実はね、山内さんに4月から異動の内示が出てるんだ」

「えっ……。異動……ですか……?」

頭の中にたくさんの『?』が広がる。

「じ、人事異動……っていうことですか?」

「そうなんだ。山内さんに秘書部への異動の内示が出ていてね」

「えっ、ひ、秘書部ですか?」

私は驚きのあまり、目を見開いた。

「そう、秘書部なんだ」

塩野部長はいつもと変りない笑顔でゆっくりと頷いた。

「そ、それって、私がマーケティング部にはもう必要ないっていうことでの異動なのでしょうか?」

私は泣きそうになりながら2人に尋ねた。
入社して丸4年たち、今年で5年目に入る。
私なりに一生懸命仕事をしてきたつもりだ。
なのにこんな人事って、もしかして私がいらないってこと?
全く違う分野の仕事って……。
もしかしてリストラをするための伏線?

この短時間の間に不安要素が一気に膨れ上がる。
そんな私の気持ちが通じたのか、今度は瞳子さんが真剣な顔をして口を開いた。

「それは全然違うわよ。塩野部長も私も山内さんにはマーケにいてほしいと思ってるの。正直、山内さんをマーケから異動させるのはマーケティング部としては相当痛いの。部長や私の補佐としてだけでなく、仕事も早くて正確で丁寧だしね。何より私たちはとても山内さんを信頼しているし」

「でっ、ではどうして……?」

「上層部からの話なんだ」

塩野部長が申し訳なさそうな顔をして私に視線を向けた。

「上層部から?」

私は呆然としながら視線を下に落とした。
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