月に魔法をかけられて
「美月ちゃんにとってはとてもいいお話だと思うのよね」

「瞳子さん、全然いいお話じゃありません」

「やっぱり秘書という特殊な仕事になるから不安だよね」

瞳子さんはうんうんと頷きながら私を見つめる。

「不安もありますけど、不安よりなにより、私は秘書の仕事ってしたことないですし、いきなり副社長の秘書なんて無理です。秘書部に異動になるというお話は理解できます。だけど経験もないのにいきなり副社長の秘書だなんて……」

私は首を左右に振って瞳子さんに訴えた。

「美月ちゃんは部長や私の補佐としてとてもよく仕事をしてくれているもの。それは心配しなくても大丈夫よ。それにね、秘書と言っても副社長の秘書は売れ行きやニーズ、シェアなどもわかっていて、業務の話や資料作成もこなせる人を探しているの。美月ちゃんならそういう業務からスケジュール管理まできちんとできるし、私は美月ちゃんしか適任者がいないと思ってる。最初は戸惑うかもしれないけど、美月ちゃんならすぐに秘書の仕事もできるようになるわ」

瞳子さんは大丈夫と言わんばかりに大きく頷いた。

このままでは本当に副社長の秘書にされてしまう。
どうにか阻止しなくては──。

「瞳子さん、いくら売れ行きやニーズ、シェアなどがわかっているとはいえ、秘書経験のない私が秘書だと副社長に迷惑をかけてしまいます」

「それは大丈夫よ。副社長は海外ではほぼ自分で何でもこなしてたから。だけど日本に戻ってきて日本のマーケやコスメはまだそんなにわかってないでしょ? それをわかっている人が秘書になってくれたら、通常の秘書より仕事がスムーズに運ぶじゃない?」

「そ、それはそうですけど……」

それは理解できるけど、どうして私が副社長の秘書なの?
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