月に魔法をかけられて
「わぁ! めちゃ美味しすぎる!」

「こんなに美味しいものが食べられて幸せだよね!」

目の前のテーブルに運ばれてくる数々の料理。
アオリイカのフリットや、生タコとフルーツトマトのマリネ、バーニャカウダに、雲丹が添えられたさわらのグリルなど、運ばれてきた料理は想像以上に美味しくて、このお店の予約が取れないのが頷けた。

「美月、秘書の仕事はどう? だいぶ慣れた?」

ポルチーニ茸のクリームパスタをフォークでくるくると巻いていた彩矢が尋ねてきた。

「少し慣れてきたけどまだまだ全然。前にいたマーケの仕事に戻りたいよ」

「やっぱり副社長の秘書って大変?」

「大変なのもあるけど、なんか副社長って怖いんだよね。全く笑わないし。機嫌がいいのか悪いのかとか、何を考えてるのかもわからないから、話をするにも緊張しちゃうし」

私は大きなため息をつきながらフォークでフルーツトマトを刺すと口の中に入れた。

「このトマト、甘くて美味しい!」

自然と頬が緩んでしまう。

「でも副社長って超イケメンなんでしょ。前にそう言ってたよね?」

彩矢が興味津々の顔で聞いてくる。

「うん。顔はねイケメンだよ。かなりのね。でも……」

「でも?」

「イケメンはイケメンなんだけど、怖すぎてそれどころじゃなくて。なんて言うんだろう。残念なイケメンっていうか……」

私の言葉を聞いた彩矢は楽しそうに笑いながら白ワインのグラスを手に取った。
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