怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
「数千円でその辺の小学生を何人かスカウトして、自分の家に電話かけさせてさ、誘拐されたよって演技させんの。で、電話越しのその子達の親が狼狽してんのを録音して、ウケる~って笑ってる動画。しかも女の子を追いかけてるのもあったね」
「へえ。追いかけてるのは知らないけど……。誘拐の方は、随分炎上したのよね。当たり前だけど」

 軽蔑まじりの口調で言って、あかねは腕を組んだ。

「そりゃそうだよ。すぐ削除されたからね。追いかけてる動画」
「要、どんだけ荒らしや仮面観てるのよ」
「そんなに観てないよぉ。あたしは、毎日色んな情報に触れてたいだけよん」
「マニアね」
「で、そいつがなんだよ?」

 若干、痺れを切らしたように秋葉が割って入った。

「そのこともあって、最近再生回数も落ち込んでたし、姿見なかったんだけど、昨日新たな動画が上がってたんだよ。近々、面白い動画を上げるって。地獄の業火降臨? とかってテロップ入ってたけど」
「何それ、気味悪い」

 ぶるっとあかねが震えたときだった。引き戸が開かれる音がして彼女達はドアを振り返った。ドアの前にはかなり背の低い、ツインテールの女子がいた。白石女子高等学園の制服である、白いセーラー服のワンピースを着ていなければ、小学生にも間違われそうなほど幼い顔立ちをしている。

「呉野先輩! 退院なさったんですね!」
「く~れのちゃんっ! 退院おめでとね」

 あかねが駆け寄り、要はその場で手を振って快活に笑う。その横を通り抜けて、秋葉は呉野幼子(くれのようこ)に近づくと呉野の頭にぽんと手を置いた。

「今日だったんですね。おめでとうございます」

 その手を振り解いて、呉野は秋葉を僅かに睨む。

「子ども扱いするなです」

 呟いて、不機嫌な表情のまま視線を要に投げた。

「ぼくが今日退院なの知ってたのになんで来ないんですかっ!」
「ええ~? あたしなんにも聞いてないけど?」

 怪訝に首を傾げた要だが、どこかわざとらしい。呉野は頬を膨らませた。

「〝情報の毒蜘蛛〟が、そんなことも知らないはずないじゃないですかっ!」

 憤慨して見せた呉野の目尻に僅かに涙が光る。
 情報の毒蜘蛛、それが要のアダナだった。

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