怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
 吉原要は、この学園では問題児で知られている。成績は中の上、暴力性は無く、品行方正とはいかないまでも、学業に対する態度は至って普通という彼女だが、吉原要という名前、もしくは情報の毒蜘蛛というアダナをこの学園では知らない者はいなかった。

学園中のあらゆるところから噂を聞きつけてはメモし、それを手帳に書き記している。内輪だけしか知らないネタですら知っているため、校内の者は生徒を含め教師ですら要を怖がる者が多い。

要本人は情報を悪用することはないが、たまにひょいと情報をネタに人をからかうため、悪用されるよりも底知れない不安が彼女達の首にもたげるのだ。とは言っても、モンスター級に広い学園のこと、要の名前やアダナを知ってはいても、顔を知らない者は多くいる。

「吉原がこの前お見舞いに来た時に病院の怪談なんて聞かせるから、ぼくはそれからず~っと怖くて眠れなかったんですからね! せめて退院祝いでも寄こせですっ!」
「はあ!? アンタそんなことしてたわけ!?」
「お前なぁ……。気持ちは分かるけど、臆病な先輩にそんなことしたらどうなるかくらい判るだろうが」
「だってさぁ、呉野ちゃんってどうしてもからかいたくなっちゃうのよねぇ」
「それは分かるけど」

 うんと頷いた秋葉の肩をべしっと叩いて、あかねは腰に手を当てた。勢い良く要を叱りつける。

「呉野先輩は入院してたんだからね!」
「って言っても、足の骨にほ~んのちょっとだけヒビ入っただけじゃん」

 頬杖をついて、要は悪びれた様子もなくちらりと呉野を見る。呉野は深いため息を落とした。

「まったく……。だからこのクラブの連中に関わりたくないんです。まともなのは藍原だけですね」
「由希か……。いつ帰って来るんだろうな」
「忘れたの? 一年くらいは向こうにいるって言ってたじゃない。たまに連絡はくれるんだし」
「くれるけどさ。内気なあいつがちゃんとやってんのか、心配になるだろ」
「なるけど、しょうがないじゃない。由希が選んだ道だもの。応援しなくちゃ」

 予想に反してしんみりしだした空気に、呉野は戸惑ってきょろきょろと視線を動かした。そこに、要の明るい声が響いた。

「由希なら大丈夫でしょ。留学先でもなんやかんやでやれてるって!」
「なんやかんやって……。まあ、そうね」
「だな」

 くすっと笑って、あかねと秋葉は頷いた。

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