怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
「舌があったからといって、それが猪口さんのものであるという証拠は? そもそも舌を切ったくらいじゃ人は死なないし、それが他人によって切られたものだと何故断定出来るのですか?」
「出来ませんね」

 要の即答を聞いて、田中は口の端を歪めて笑った。

「じゃあ、猪口さんが生きていて、目くらましのために血痕を残して、逃げたという可能性だって大いにありますよね? 大島さんを殺したから逃げたんだ」

「でも、自分で舌なんか切りますかね。血だけなら分からないでもないですけど」
「だけど、僕はずっとペンション内にいたでしょう? 下痢して」
「確かに、田中さんお腹壊してたのよね。だから、私達が連絡しに行ったんだもの」

 笹崎が戸惑った声音を出した。

「そうでしょう。トイレにずっといた僕が、どうやってその茂みに行けるんです? リビングには吉原さん、あなた達がいたんですよ? 勝手口や玄関から出ようにも、あなた達に見られずに出られるはずがない」

「田中さん、本当は下痢なんてしてないんじゃないですか?」
「いやだなぁ、僕が漏らしたの見たじゃないですか」

「あたしが見たのは、洗濯しているあなたです。あなたはずっとトイレに篭り、あたし達がビデオを見ている隙に、トイレを出て、隣の洗面所の窓から抜け出し、同じく窓から逃げ出してくる猪口さんを殺害したのでは? その際、舌を切ってしまった。血がついてしまったから、あなたは洗濯をしたのではないんですか?」

「それは、ただの推測ですよね」
「確かに、これはただの推測です。でも、大島さんを殺害したのは、あなたですよ。田中さん」
「何を言ってるんだ……。そもそも、大島さんを殺害したのは猪口さんだって言ったのは、キミだろう?」

 呆れて田中は首を振る。要はふと、鼻で笑った。

「いいえ。あたしは一度も猪口さんが大島さんを〝故意に〟殺害したなんて言ってません。火を点けたのは猪口、でも大島さんが死ぬように仕向けたのは、あなたです」
「だから、なんの証拠があって……! 火を点けたのなら、猪口さんが犯人でしょう!」

 田中はイラついた様子で声を張った。要はおもむろに立ち上がると、スタスタと歩いて暖炉に横たわる大島の遺体にかかっていた毛布を取った。じっと、遺体を見つめると、振り返って、

「見てください」

< 81 / 102 >

この作品をシェア

pagetop