それ以外の方法を僕は知らない


.
.
.



「音々、着いた」

「…うん」

「俺、本当に大丈夫だから」



「またな」と言い、踵(きびす)を返して帰っていく彼の背中を見送る。



その背中に抱き着いて「私にしなよ」って、
私が代わりになるよって、

言葉にできたら、どんなに楽だっただろうか。




彼に興味があったのも、

彼と一緒にいたいのも、

こんなに胸が苦しいのも、


ぜんぶ、私がきみに恋をしてしまったから、なんだ。





「…うぅ…、っ克真くん…、」



好きな人が、大切な人が、自分ではない誰かと幸せになることのつらさ。

それが分かってしまう自分になんて、ずっと気づかないままで良かったのに。



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