赤鬼と黒い蝶
「汚ねーな! ……っ、いてて」

「何が汚いじゃ。これは消毒じゃ。男のくせにこれしきの傷でジタバタするでない!」

 平手は薬草がたっぷり塗られた布を傷口に貼り、布で縛る。

 この家には消毒液とか包帯とかねぇのかよ。

「体に傷はないのか? 脱いで見せてみろ」

 平手は素手であたしの背中に触れた。

「いてて、勝手に触るな。誰が脱ぐか」

「傷はあるようだな」

 侍女が着物を整え、あたしの特攻服を脱がせた。

「その特攻服は歴代の総長から引き継いだもの。あたしの私物は捨てんなよ」

「……は、はい」

 特攻服の下は白いTシャツ。このままでは胸の膨らみがわかる。

 あたしは胸もとを隠し侍女に背を向ける。

「お菊はもう下がってよい。晒しを持ってきてはくれぬか。わしが傷の手当てをする」

「はい。畏まりました」

 侍女はすぐに晒しを用意し、平手は人払いをする。閉められた襖、座敷には2人きりだ。

「その白い服を脱ぎ、背中を見せるがよい」

「自分でやるから、ここから出て行ってくれ」

「裸をわしに見せれぬのか? やはりお主は女であろう」

「……っ」

「わしの目は節穴ではない。そのような足を見れば女じゃとすぐにわかる。信長様に何故虚偽を申した」

「ちぇっ、バレたらしょうがねぇ。あたしは女だ。女だと言えば、あいつにレイプされかねないからな」

「レイプとは何じゃ?」

「あいつに襲われるのは、ごめんだ」

「信長様が手込めにするとな。確かに信長様ならやりかねぬ。濃姫(のうひめ)様と婚儀が整ったばかり。これ以上の色恋沙汰は御免被る」

「濃姫様とは?」

「美濃国の濃姫様を知らぬのか? 斎藤道三の娘、名は帰蝶(きちょう)。美しき姫君じゃ」
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