どうして・・

···悲しみの瞳


「川本さん、ご両親には
辛いことを沢山お聞かせすることに
なり申し訳ありません。」
と、奥菜先生が言うと
「いいえ。先生のおっしゃることに
なんら間違いありません。
彩羽ちゃんの気持ちを考えると
胸が詰まる思いです。
謝っても、謝っても
許される事ではありません。」
と、言い
「先生、私達夫婦には
最初から子供はいなかったと。
その手続きをして頂いても
良いですか。」
と、言う川本のお父さんに
「可能です。」
と、先生が答えると
新は、顔をあげて両親をみた。

「お前は、俺達だけでなく
日垣さんの顔も潰し
彩羽ちゃんの心に深い傷を
追わせたんだ。
なのに、平気で今まで通りできると
でも思っていたのか?
結婚すると言うことは、
その人に責任をもつと言うことだ。

捨てられた女に絆されて
自分が結婚を誓った女性を
蔑ろにして現を抜かす
そんなバカな男と結婚しなくて
良かったと今では思っている。
彩羽ちゃんが結婚してから
傷つくことがなくて
本当に良かったと心から思う。

もう、親でも子でもない
好きに生きたら良い
その女と。」
と、川本のお父さんが言った。

「君は、私達夫婦に
挨拶にきた時
自分がなんと言って頭を下げたか
覚えているか?
あのときも
適当に言っていたのだろうな?」
と、言う父に新は頭をふる
「だから、気持ちの切り替えも
早くて、簡単に彩羽を切り捨てたんだろ?
彩羽が嫌なら、そう言えば良かった。

他の女に走るなら
そう告げるべきではなかったのか
彩羽は、嫌がったかも知れない
だけど、俺がそんな男なら
阻止することができた。
自分が父親として彩羽に嫌われても
彩羽が傷つくより
断然良いんだよ。」
と、言うと
新は、父に頭を下げて
「本当に申し訳ありませんでした。」
と、言うと
「君は、28歳だと言うのに
情けない男だな。
謝る人が違うだろう。
君のせいでお父さんは
会社でも、親族からも
攻め立てられていたんだ。
30前にもなって
自分の行動に責任も持てないのか?」
と、父が言うと
新は、立ち上がり
川本のお父さん、お母さんの
そばに行き、土下座をした。
「親父、お袋、
本当に申し訳ありません。」
と、言ったが
川本のお父さんもお母さんも
新の姿を目の端にも
止める事もなく
奥菜先生に
「先生、書類は、
どのようになりますか?」
と、川本のお父さん。

先生は、
「戸籍が絡みますので
日を改めて進めさせていただきます。
ですが、本当に宜しいのですね?」
と、確認すると
「正直、こんな事なら
最初から自分の子でいて欲しくなかった。

妻も私も、ここ数日で
疲れてしまいました。
会社には、異動か退職かを
考えている事を話してます。」
と、話す川本のお父さんに
そんな風にまでなっているのかと
心が痛む。
先生は、悲しい顔をして
「わかりました。
川本さんのお心に沿うように致します。」
と、言ってから

「新さん、あなたの謝罪は
到底受け入れられないでしょう。
人に言われないと
そんな常識さえもわからない
あなたでは。

さあ、ちゃっちゃと
終わらせたいので
椅子に座ってください。

それでは、こちらの書類に
二人とも記入をお願いします。
事前に印鑑をお持ち下さいと
お伝えしてましたので
記入後、捺印をお願いします。」
と、言うと
新の苦渋の顔が
ちらりと見えたが椅子に座り
シーンと静まりかえる部屋に
二人の記入する文字の音だけがした。

私は、悲しみの中にいると
私の手に一華さんの手が重なる。

一華さんをみると一華さんの
悲しみの瞳と重なる。
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