ニセモノの白い椿【完結】
さすが、花形部署だ。活気が違う。
電話が飛び交い、男性も女性も、デキル感が半端ない。
その中でもやっぱり、木村は目に付く。
生まれながらの気品なのか。
それとも、この目にフィルターがかかってしまっているからか。
モテオーラを消すためという黒縁眼鏡をかけて、憎いほどの超爽やかな組み合わせのシャツとネクタイ。
肩と耳との間に受話器を挟み、手にはファイル。
クソっ。かっこいいな。
”女の子は笑っていないとね”
不意にあのチャラついた笑顔が浮かぶ。
チャラいくせにかっこいいとか、それこそ反則だろ。詐欺だ。インチキだ。
心の中であれこれと盛大に悪態をつく。
同居を解消してから、部署の違う私たちはあっという間に顔を合わさなくなった。
以前の状態に戻っただけだ。
会おうと思わなければ、どちらかが近付いていかなければ、こんなにも接点のない人だったんだ。
そもそも頭取の息子なんて、本来なら遠い存在に決まっているわけで。
これまでが異常だったのだ。
だいたい、頭取の息子らしからぬチャラさを醸し出していたせいだ。
頭取の息子なら、それらしくしていればいいものを――。
何でもいいから木村に文句をつけて、込み上げて来るやっかいな感情を押し込める。
さて、仕事だ仕事。
活気あるそのフロアからさっさと退散する。