契約ウエディング~氷の御曹司は代役花嫁に恋の病を煩う~
「これです…どうぞ」

槇村先生はクリアファイルに挟んだ出生証明書を渡した。
「少し時間ありますか?」

「えっ?」

「元カレとして、遥さんのコトが気になっているもので…」

「・・・別にいいですけど…」

俺と槇村先生は医局を出て、人気にない屋上に出た。
屋上は憩いの場所として空中庭園になっていた。
「・・・遥が何か貴方に相談でもしたんですか?」

「いえ、何も…彼女の苗字が旧姓に戻っていたから…気になっただけです」

「・・・皆がウワサするように離婚はしていません…でも・・・彼女の方が離婚を望んでいる。それが旧姓に戻した意思表示だと」

「彼女の流産が原因ですか?」

「・・・長谷川副社長は遥の妊娠を知っていたんですか…そうですよ…彼女は妊娠してました。
でも・・・俺は自分の子の命を救えなかった…一番救いたかった命を産科医として救えなかったんですよ…」

槇村先生は屋上へと行く途中の自販機で購入した缶コーヒーを開けて一口啜った。
俺も缶コーヒーを開け、口に含む。
隣に立つ槇村先生の横顔を横目で見つめた。
彼の瞳はやり切れない思いで溢れ、今にも涙が零れそうなぐらい潤んでいた。
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