贅沢な寂しさ ~身分違いの結婚

来客に お茶を出すのは 総務課の新人の仕事。

私は 来客のたび 応接室に お茶を運んだ。


最初は 緊張して お盆を持つ手が 震えたけど。


少しずつ お茶出しに 慣れてくると

お客さんや 対応する社員のことも 覚えて。


新人には ぴったりの仕事だった。


何度か 悠樹の来客にも お茶を出した。

「ありがとう。」

そんな時 悠樹は 必ず 笑顔を向けてくれた。


若くて イケメンの悠樹は 社内で人気だったけど。

私は 悠樹に 特別な興味を 持たなかった。


悠樹は 副社長だから 立場が違い過ぎて。

私にとっては 憧れの対象ですら なかった。


「前田さん 今 副社長のお客さんでしょう?」

「はい。」

「いいなぁ。副社長に会えて。」

「えっ? 会えたって お茶出しただけでも?」

「前田さん 副社長のこと 何とも思わないの?」

「はい…だって 副社長ですよ?」

「クスッ。前田さんって おもしろいね。」


総務課の先輩は みんな 明るくて。

新入社員の私にも 優しく接してくれた。





< 12 / 90 >

この作品をシェア

pagetop