戦国占姫
第十九話 悲劇の女

 黒服達は手袋をはめて、ナイフを構えた。
 「ここで死んでもらうぞ! ヒミコ!」
 「そんなこと、私がさせない!」
 ナオミは元ヤンキー。木刀が似合う武闘派女。偶然、落ちていた錆びた鉄パイプを握りしめて威嚇。黒服達をにらみ返していた。
 (えっ?)
 ナオミの横顔を見て驚いた。その顔に見覚えがあった。テキーラと名づけたナオトーラの面影。私の相談役だった武将メイド。
 (何で?)
 ナオミは黒服達を私に近づけさせない。その姿はテキーラそのものだった。

 「ふん。ナオミばっかりに、いい格好させられるかよ!」
 ハンジは黒服の背後から、拾った木片で黒服の首を叩く。
 (あ、あれは・・・)
 「影縫い」かと思わせる動き。ジンと名づけたハンゾー、そのものだった。どことなくジンの雰囲気を出している。ミステリアスな男性。
 「二人に遅れをとるな、いくぞ、リーチ」
 「もちろんだ! カンゾー」
 二人も負けじと参戦。リーチはリキュール。カンゾーはウォッカ。横顔と雰囲気はそのままだ。
 私を守る学友にその姿がダブった。

 私はまだ意識が朦朧としていた。
 異世界の執事達がここにいるハズがない。それなのに学友がそう見えてしまう。
 命懸けで守ってくれている学友。彼等が輝いて見えた。
 (皆、ありがとう)

 突然、バーンと発砲音。皆が一斉にその方向を振り返る。黒服の一人が空に銃を撃った。
 「覚悟しな! 最初からコイツを使うべきだったな」
 銃口は私に向けられていた。
 バーンと発砲音。私は目を閉じて倒れた。
 「姫子ーっ!」
 学友が私に駆け寄った。
 黒服の銃が落ちる。撃たれたのは黒服の方だった。
 「ふー、何とか間に合ったな。あの黒服達を逮捕しろ!」
 最初は抵抗する黒服達だったが、猿顔の刑事と警察官に取り押さえられ、逮捕されていた。私は気を失って倒れただけで、無傷だった。念のために検査入院した。

 ナオミが見舞に来ていた。ベッドに座り、雑談。
 「えっ? ち、ちょっと待って・・・私はハンジと・・・そ、その・・・き、キスをしたの?」
 「そうね。人工呼吸だったけど、そうなるわね」
 ナオミにそう告げられると私は顔が真っ赤になった。たとえ人工呼吸だと言え、男の人と初めてのキスだった。
 「私も人工呼吸をしたんだけどね・・・」
 「えー、何でナオミが最初から人工呼吸をしてくれなかったの?」
 「うーん、そうするつもりだったけどね・・・ハンジが躊躇なく人工呼吸をしたものだから、止めるタイミングが無かったの・・・ゴメン」
 「まー、いいわ。人工呼吸だし。私の初キスは、まだ誰にもあげてない。今回のことはノーカウントよ」
 「そ、そうね。・・・そうしておきましょう」
 ガラガラと病室の扉が開く。
 「おー、姫子。元気そうだな。二人で楽しそうに何を話していたんだ。廊下まで話し声が聞こえていたぞ」
 「な、何でもないわよ!」
 「・・・姫子のキスの話よ」
 ナオミは男達に言った。
 次の瞬間。リーチとカンゾーからキスをされた。
 (えっ? えー・・・どうなっているの?)
 「ハンジだけズルいからな! これで皆、平等になった」
 「ちょっと、何で私にキスをするのよ!」
 私は流石に怒りを覚えた。
 ナオミはケラケラとお腹を抱えて笑っている。
 「ひ、姫子。皆からキスされて、うれしいかー。ひー、お腹が痛い」
 (な、ナオミのバカ・・・)
 突然のキスに驚き、恥ずかしいのやら、私は頭から湯気が出る。当然、顔は真っ赤。
 「姫子、ゴメン。ハンジがいけないんだからなー。抜けがけは無しだぞ」
 「そうだ。姫子は皆の姫子なんだからなー」
 「・・・いや、キスなんてしていないぞ! あれは人工呼吸だ!」
 ハンジはそう言って私にキスをした。
 「な、ナオミー。笑っていないで何とかしてよ!」
 私は半べそだった。三人に代わり交代でキスをされまくった。
 「じゃぁ、最後は私ね」
 ナオミが私と濃厚なキスをした。
 「ち、ちょっとナオミまで・・・」
 「仕方がないじゃない。皆、姫子のことが好きなんだからさー」
 (いやいや、そういうことじゃないんだって・・・)
 「はい、氷見川さん。検温の時間ですよ」
 看護婦が体温計を見て驚いた。
 慌ててドクターを呼ぶ。
 私は高熱だった。・・・病気ではない。学友がいけないのだ。私の退院が延びた。
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