救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
「光治様、あやめ様。私、お二人の軽食と抹茶のおもてなしを受け取りに行って参ります。こちらの席でお待ちください」

夜景と日本庭園の美しさが楽しめる絶妙のポジションに、田中は席を確保してくれた。

「ありがとうございます。田中さん」

「あやめさん、僕もあなたのために抹茶のスイーツをゲットしてきます。楽しみにしていてくださいね」

田中に負けじと張り切る光治に、あやめは笑みをこぼす。

一般的な祭りの屋台とは決定的にゴージャスさという点が異なってはいるが、日本庭園の雰囲気を損なわない程度にテナントの出張用ワゴンが配置されており興味を引いていた。

光治は、先程からあやめが和菓子店の存在を気にし続けていることに気付いたのだろう。

「いえ、それなら私が買いに行ってきます」

「あやめさんは僕に恥をかかせるおつもりですか?ここは僕の顔を立てて、黙ってこの特等席を死守していてくださいね?」

ニッコリと首を傾げる光治は間違いなくイケメンだった。

これで堅物王子の異名をとっているとはにわかに信じがたいと胡散臭く思っていた。

複雑なお育ちにも疑問が残る。

しかし、ここは屋外。

勤務医であるあやめとは違い、このベリーヒルズを総括する社長の息子である光治には、世間体もあるだろう。

「それではお願いしてもよろしいですか?」

「喜んで」

居酒屋の店員のような返答をして足早に和菓子店に向かう光治を見送って、あやめはフゥっと一息ついた。

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