切ないほど、愛おしい
「金もあって、仕事もできて、見た目だって悪くはない。一見取っつきにくいがその愛想のなさを補って余るだけの好条件のお前だ、学生時代からもてていたじゃないか。それでも、特定の彼女がいたことはなかったよな?」

「ああ」

「お前は良い奴だし、信用できる人間だ。人とは少し違った環境で育ったせいで、他人に対しての警戒心が強いのも、心を許すことが苦手なのも、全てひっくるめて俺はお前のことを親友だと思っている」

「ぁ、ああ」
あまり褒められた気はしないが、とりあえず頷く。

「でも、乃恵のことは話が別だ」

「えっ?」

「お前は、俺にとってかけがえのない人間。俺が生きていく上でいてもらわないと困るんだ。でも、乃恵は俺の命だ。こいつのためになら俺は命を投げ出せる。こんなことを言うとシスコンみたいでイヤだけど、乃恵がいなければ俺の人生なんてもうどうでもいい」

「陣・・・」

家族を持たない俺に、陣の気持ちはわからない。
でも、その真剣さは伝わってきた。
もし乃恵ちゃんに何かあれば、陣はためらうことなく俺に刃を向けるだろう。

「だから、聞くんだ。徹、お前は何を思って乃恵をここに連れてきた?」

「それは・・・」

「それは?」

「・・・」
明確な答えなんてない。

何か言わないとと思うのに、良い言葉が浮かばない。
それ以前に、自分の気持ちがわからない。

結局、黙ってしまった俺。
しばらく俺のことを睨んでいた陣も、諦めたように肩を落とした。
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