切ないほど、愛おしい
「じゃあ、行ってきます」
「うん、気を付けて」

一緒に朝食を食べてから仕事に向かう徹を見送る私。
退院して徹のマンションに帰ってきて以来、専業主婦のような生活を送っている。

「今日は病院だったよな?」
「うん。せっかくだから雪菜ちゃんとランチをして医局にも顔を出してくるわ」
「ああ。俺は、今夜は会食の予定が入っているから遅くなりそうだな。待たなくていいから先に寝てろよ」
「わかった」

結局3か月休職した後仕事に復帰した徹。
最初は私を心配して30分おきに電話をくれていたけれど、しばらくすれば慣れてやっと日常生活に戻ってきた。

「無理はするなよ。行き帰りは電車なんて使わずにタクシーにして、間違っても仕事なんてするんじゃないぞ」
「わかってるから」

いいから早く仕事に行ってと背中を押しながら、私は徹を送り出した。


「さあ、私も準備して病院へ行かなくちゃ」

外出用の小さめのポーチに財布と、ハンカチと、診察券と保険証。携帯は出かけるまで充電しておこう。
それから・・・病院のみんなからもらったお見舞いのお返しにお菓子でも買っていこう。
スタッフは女性が多いから甘いものを差し入れればきっと喜んでくれるはず。
ということは、やっぱり駅前に行きたい。
徹には怒られそうだけれど、少し歩いて駅前の店まで行ってみよう。
そうと決まれば、早く支度をしなくちゃ。

急に慌ただしくなった私は、バタバタと身支度をしてマンションを飛び出した。
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