切ないほど、愛おしい
「とにかく、新居探しはこのくらいにしてアパートに行ってみよう。解約の手続きもあるし、警察に届け出も出さないといけないしな」

確かに、今やらなくてはならないことはたくさんある。
でも、

「できたら今日のうちにアパートを決めたい」
それが本心。

勝手にルームシェアをして、保証人になったのも気づかずに、借金取りに追われ住むところを失い、初めて会った男性の家に転がり込んだ、みっともない私。
今のままではお兄ちゃんに話せない。

「なぜそんなに急ぐ?」
「それは・・・」

「俺のことは気にするなって言ったよな?」
声を低くして私のことを見る徹さん。

「うん」

でも、イヤだ。
男の人の優しさに甘えて、ホイホイとマンションまでついて行く女になりたくない。
これ以上誰かにすがって生きたくない。

「なあ、大丈夫か?顔色が悪いぞ」
「うん、平気」

体調が良いとは言わないけれど、疲れれば倦怠感が出るのはいつものことだし。
私の体はいつもそんな感じだから。

「じゃあ、行くか?」
徹さんが立ち上がる。

「はい」
私も席を立ち、徹さんを追った。
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