きみに ひとめぼれ

そわそわと心が落ち着かない。

本当はそんな気持ちに、もうなっちゃいけないんだけど。

だって、私はすでにフラれているのだから。

彼の眼中にはもともと私なんていなくて、勝手に追いかけていたイタイ女子。

まだ気持ちが残っているなんて、ほんとありえない。

行き場をなくしてしまったこの気持ちを、私はいまだに持ち続けて処理できないでいるのだ。

勝見君のことで舞い上がっている今でさえ。


__忘れるんだ。もう忘れるんだ。


足音と心臓の音が早い。

ドキドキするけれど、このドキドキは昔のそれとは全然種類が違う。

切なくて、苦しくて、恥ずかしい。

眉間に力がこもった。


__気にしない、気にしない。


そう自分に言い聞かせて吹っ切るように前を見据える。

こんなことになるなら、ゴミ捨てなんて名乗り出るんじゃなかったな。

そう何度後悔しただろう。


ゴミを捨ててから、誰もいないその場所で今日もまたそんな後悔を繰り返す。

じわじわとフラれた日のことが蘇ってくる。

思い出したくなくても、ぼんやりしていたり、ふと気が緩むとその場面ばかりが頭の中で再生されるのだ。

誰も好き好んでそんな苦い思い出を思い出したりはしない。

その思い出を頭から追い出すように目を閉じた。

耳を澄まして意識をそらす。

遠くの方から生徒たちの声が聞こえる。

男子の大きな笑い声、女子のキラキラとした声。

その中に混じる、テニスラケットにぶつかってスコーンと軽やかにボールが跳ね返る音。

ざわざわと木々の揺れる音に共鳴して、また胸の辺りがざわつき始める。

深呼吸をして、何とか気持ちと鼓動を落ち着かせようとした。

だけど、どうにもこうにも落ち着かない。

逆効果になっている。



__だめだ。勝見君が待ってる。



無理やり自分にそう声をかけた。

重い足を引きずるように、私は同じ道を駆け足で戻っていった。


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