溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 努力は報われる。それは本当でもあるし、嘘でもある。

 だからといって、なにもしなければ願いは叶わない。小さい頃から「無駄な努力」といわれてきたことも、「継続は力なり」でどうにかなることだってある。

 今、わたしはそれを身を以て感じている。

 クリニックの玄関に立って、和也くんが出てくるのを待つ。さっき真鍋さんと川久保さんが「お疲れさまです」と出てきたから、きっともうすぐのはずだ。

 木陰に隠れて彼を待っているのは、真鍋さんたちがわたしのことを本当にストーカーだと勘違いしてはいけないからだ。

 まあ、やっていることは完全にストーカーそのものなんだけれど。

 あれこれ考えているうちに、予想通り和也くんが出てきた。それを見たわたしは飛び出したが、和也くんは特段驚いた様子でもなかった。

「あれ? びっくりしないの?」

「ああ、どうせ待ってると思ってたから」

 そうだった、彼にとってこれはいつものことだから。

 さっさと歩き出した和也くんの後を追いかける。

「でも、面接のときはさすがに驚いたよね?」

 あのときの驚いた顔の和也くんを思い出して、胸がキュンとする。わたしの和也くんメモリーの中でも上位に入るほどいい表情だった。

 まとわりつくようにして彼の隣を歩いていたわたしは、急に足を止めた和也くんをニコニコと眺める。

 彼のほうが三十センチ近く背が高いから、こうやっていつも見上げることになる。この距離感がとてつもなくいい。

「ああ、お前のしつこさには心底驚いたよ」

「え? なんだそんなこと?」

 あははっと、声をあげたわたしを和也くんが睨む。

 あれ、ちょっとご機嫌斜めなのかな?

「お前の執念深さは十分わかっていたつもりだったけど、まだ俺のこと諦めてなかったのか」

「それは、もちろん!」
< 7 / 156 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop