溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 すでに診察ができる準備が整っている院内を見て、真鍋さんが不思議そうな顔をした。

 わたしと真鍋さんが戸惑っている様子を見て、君島先生が答えてくれる。

「ちょっと、トラブルがあったんだ」

 君島先生の台詞に、わたしと真鍋さんが顔を見合わせる。

「今日中村先生は事情があって来られません。おそらく一日大変だと思うけれど、どうかサポートをよろしくお願いします」

 君島先生が頭を下げる。

「あの、中村先生が来ないってどういうことですか? ご病気かなにかですか?」

 唯一事情を知らされているであろう君島先生に詳しく話を聞こうとする。

「いや、俺も詳しい話はまったく聞いてないんだ。だからごめんね」

「そう……なんですね」

 君島先生も急なことで準備に忙しいだろう。わたしはそれ以上追及することをやめて、仕事にとりかかった。

 その日は大変だったけれど、患者さんも顔見知りの方が多かったせいか、みなさんご理解いただいてなんとか大きなトラブルもなく診療を終えた。君島先生の力量もある。さすが和也くんが見込んだ医師だ。

 最後の患者さんを送り出して片付けをし終わった頃、中村先生がクリニックにやってきた。

「みんな、今日はすまなかったな」

「中村先生!」

 皆が受付前に集まる。

 わたしは二日ぶりに見る和也くんの顔を見つめた。心なしか疲れているように見える。

「仕事終わりで疲れているところ、申し訳ない。少し時間をくれないか?」

 三人ともが一様にうなずいた。なにか大切な話があるということだけは、この場にいる全員がわかっている。

「真鍋さん、お子さんのお迎えの時間大丈夫?」

「はい。今日は主人が行ってくれることになっているので。一応連絡は入れておきます」

 真鍋さんがスマートフォンを手に取って、ご主人に連絡を入れている間にも時間を惜しんだ和也くんが話しはじめた。
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