溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「今日は急な話で、申し訳なかった」

 もう一度頭を下げた和也くんの言葉をみんなが待つ。彼はひとりひとりの顔を順番に見た後一度目を伏せ、意を決したように口を開いた。

「この病院は、君島に任せようと思う」

「……えっ?」

 いったいどういうことだろう。そんな急に言われても理解が追いつかない。

 和也くんはもうここでは働かないということなの?

 三人ともなにも話さない。重い雰囲気の中、和也くんが事情を話しはじめた。

「もともと君島にはここを引き継いでもらうつもりでいたんだ。少し時期が早くなったが。まだ十分に患者さんのことも話できないままで本当に申し訳なかった」

 ここはもともとは和也くんの叔父さんが経営するクリニックだった。けれど二年前亡くなったときに彼が引き継いだのだ。

「それで中村先生はこれからどうするの?」

 我慢できずに一番知りたいことを聞いた。

「ここを引き継ぐ時期が早まったのは、うちの実家の病院を継がなくてはいけなくなったからだ」

「え、だってご実家はお姉さん夫婦が継いでるんじゃなかったんですか?」

 真鍋さんが聞くと、和也くんは顔を曇らせた。

「これは身内の恥になるんだが、義兄が病院の金を持って女性と駆け落ちした」

「えっ……駆け落ち……って」

 まさかそんなことがあるのだろうか。ドラマのような展開に一同驚いて言葉が続かない。

「今まで俺は実家のことは姉に任せて好き勝手やってきたから、そろそろ親に恩返しするときが来たかなって」

 こういった不祥事は光の早さで噂が広まる。そうなれば病院の看板を背負うような医師が簡単にやって来てくれるはずもない。そもそも両親としては自身も親から引き継いだ病院を他人に任せるのはやはり嫌だということだ。

「こんなことにみんなを巻き込んで申し訳ない。困ったことがあればこれまで通り連絡してくれればいいから」

「……わかりました」

 重苦しい雰囲気の中、真鍋さんと君島先生は納得したようだ。それぞれ帰り支度をしていたので、そのまま帰って行った。
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