ガラスの靴の期限
くちゅり、いやらしい音が鼓膜を揺らしたかと思えば、間も開けず、甘ったるい声が続けて鼓膜を揺らした。
「っ、は、んっ、ゆ、ずる」
舌で口内を蹂躙しながらゆっくりと馬鹿みたいに優しくクズ野郎を押し倒して、深く交わっていた互いのものを離せば、期待と欲を孕んだ瞳と視線がぶつかる。
許されたと思っているのだろう。そんな事、一言も言っていないのに。
「声、出すとバレるぞ」
誰に、と言わずとも伝わったのだろう。意図的に笑みを作り、舌舐めずりをすれば、ごくりと眼下にある喉が上下する。それをからかうようにそこをべろりと舐めれば、自身の首にするりと回された二本の腕。
「っ好き、ゆず、るっ、好き……っ」
大安売りされた「好き」ほど憐れなものはない。だからこそ、それを聞くのは酷く気分が良かった。
「……もっとそれ、聞かせろよ。樹」
すぐネタバラシ。
なんて、そんなつまんねぇ事はしねぇ。
だからそれまでは、ガラスの靴の期限が過ぎるまでは、シンデレラ気分を味わってりゃあいい。
「っ、好きだよ、弦」
二度と這い上がれねぇように。
俺の手で、奈落の底に落としてやるから。
ー終ー


