ガラスの靴の期限
んー……と、少しばかり考える振りをする。
数秒経って、そうだなぁ、なんてわざとらしく柔い声を吐き出しながら、目の前のクズ野郎の腹部に人差し指でそっと触れた。
「俺専用って意味で、俺の名前と子宮のタトゥーをここに入れてくれたらさすがに信じる」
「……っ、ここ、に……?」
「そ。ここ」
無論、本気ではない。寧ろそんなのされたらひく。
「わ、かった、」
「ん?入れてくれんの?」
「うん。入れる」
「即答かよ」
けれど、付き合う前からこの男はこうだった。俺がして欲しいと言えば大抵の事は断らない。まぁ、断られようが断られまいが今はあまり関係ないのだけれど。
「っ、だって、」
「はは。悪い。ちょっと試した」
目の前の、クズ野郎の頬を殴り付けたその手で、くしゃりとそいつの髪を撫でる。ぴくりと面白いくらいにそいつの肩が跳ねて、俯いた顔は見えなかったけれど、その横についている耳は赤く染まっていた。
「っ」
「……殴ってごめんな?」
気を抜けばにやけそうになる口角を押さえつけながら、下げられた視線を追いかけるようにクズ野郎の顔を覗き込んで、心にもない言葉を口にする。
ふるり、ふるり。音もなく左右に揺れる髪は、六年前と違って色素が薄い。長さだって、少し長い。
「いいっ、平気……だって、俺、お前にもっと、ひど……っ、ん、」
あー……むかつくなぁ。
ぐすりと鼻をすすって、大丈夫だと笑って見せようとする唇に思い切り噛みついた。