若きビル王とのエキサイティング・マリッジ
それが僕の原動力だった。その言葉を叶える為に、友禅師の仕事も投げ出さずにやってきた。

なのに、今更他の男と結婚して、業界を離れようとしている。
そいつは着物とは何の縁もなく、ビルみたいな冷たくて硬いものばかりを設計しているのに、それでも一緒になってやっていくと言うから、後悔する前に止めさせようと思っただけ。

…別に香織ちゃんを本気で怖がらすつもりじゃなかった。ただ、頭に血が上って、やってはいけないことをしようとしたまでだ…」


悪かった…と小さな声で謝る琉成さんは、悲しそうな目で私を見る。

その顔を見たら、本当に自分のことを心配してくれていたのだ…とわかり、ホッと息を吐いて肩を落とした。



「琉成さん…」


名前を呼んで顔を見据える。

幼い頃、私に花の名前を教えてくれたり、絵筆の使い方を教えてくれたのは彼だった。
周りは大人達ばかりで、そんな中、兄のように接してくれた彼が、私の唯一の遊び相手だった。


でも、私はもう大人で、遊び相手はいらない。
彼は兄ではないし、大切な取引先の友禅師だ。


だから、ここで彼を失ってはいけない。
それに、ちゃんと大事なことを知っておいて欲しい。


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