若きビル王とのエキサイティング・マリッジ

「……それじゃまたね、ご機嫌よう、悠大さん」


明るい声が聞こえ、さっと振り向いて二人を見遣る。
彼女は彼のシャツの袖を握り、踵を浮かせて唇を寄せ、頬に軽いキスをしているところだった。

それは当然、別れ際の挨拶代わりみたいなものだ。
わかっているけれど胸が鳴り、嫌な気持ちが心の中に膨らんでいく＿＿＿。


（こういう世界に住む人達って皆、誰にでもあんな親密そうなことをするのかな）


彼もタクシーの中で私の耳朶にキスをした。
彼女のそれもあれと同じ意味なら、どうにも嫌だ…と嫌悪感を覚える。


立ち去った彼女を見送った彼が、さっと頬を拭い、振り返ってこちらへ向かってくる。
だから、急に身構えてしまい、座り直して彼が来るのを待った。



「…悪い。急に顔見知りが来て」


言い訳するように呟く彼は、何となく疲れているようにも見える。
けれど、あんなに可愛らしい女性と会話して、疲れることなんてあり得ない、と否定的に思った。


「いいですよ別に。…あの人、此処にお住いの方なんでしょ？」