若きビル王とのエキサイティング・マリッジ
自分のコンプレックスや祖父の話をしている時は、互いの距離も縮まり、いい雰囲気に変わっていたのに。


「そのお話の最中、大泉様は?」

「さあ…。俺は背中を向けていたし、彼女の様子まではちょっと…見えなかった」

「デートの相手は大泉様でしたのに」

「そう言われても、相手も相手だから、簡単にやり過ごす訳にはいかなかったんだよ」

「私に言い訳されても困りますね」

「だったら、最初から訊くな!」


不機嫌そうに怒鳴ってデスクに向かい、知らん顔して仕事を始める。

そういう態度に出ると俺がなかなか軟化しないのがわかっている松崎は溜息を吐き、仕様がなさそうにスケジュールを述べ、さっさと踵を返して部屋を出た。



「……全く。俺の方が被害者みたいな気分なんだよ」


パタンと閉じたドアの向こう側に向かって呟き、彼処に現れた相手のことを思い返してみる。


実は、あの女性はレジデンスに住む住人の一人で角川春妃(かどかわはるひ)といい、ベリーヒルズビレッジの土地と建物を所有する、旧財閥家のお嬢様なのだ。


俺は以前に彼女との縁談が組まれたことがあり、一時的だが、付き合ったことのある相手だった。


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