あの丘で、シリウスに願いを


このたび尊敬する教授から声がかかり、まことが勤務することになったのは、新設されたばかりの光英大学附属横浜新医療センター。
地元を離れるのは寂しい。だが、医師になったきっかけにもなった教授に推薦されて働けることは夢のようで、まことは快諾した。


この日は、勤務に関わる書類の確認と上司になる人物との顔合わせ、という趣旨の面接だった。


「女性だったんだ。『まこと』って名前で男だと思ってたよ。へぇ、背も高いなぁ。
私は救急外来部長の一条翔太(いちじょう しょうた)です。よろしく」

面接の相手である救急外来部長は、思っていたより若くみえた。しかも、かなり整った顔立ち。都会の洗練された佇まい。間違いなくモテるだろう。

まことの髪型はベリーショート。化粧もしない。170センチ超えの身長に、凹凸に乏しい体型。つまり、女らしさゼロ。男性に勘違いされるのは慣れている。


「センター長の一条教授からの推薦ですね。期待してます」
部長の隣。高級そうなスーツを着こなしているが、何となく幼さを感じる男性がまことに笑いかけた。

「私は一条拓人(いちじょう たくと)と申します。一条教授の甥で、このセンターの創立メンバーです。よろしく、六平先生」
その名前には聞き覚えがあった。このセンターの運営もしている『世界の一条』と称される巨大グループ。その御曹司の名前だ。



その時、コンコンとノックの音がした。
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