地獄船
「お前さ、ショック過ぎて一時的に記憶喪失にでもなったんじゃねぇのぉ?」


子鬼がそう言い、ケラケラとおかしそうに笑う。


一時的な記憶喪失。


そんな事が起こったとも思えなかったが、みんなの反応を見ているとそうなのかもしれない。


でも、だからと言って綾の手を離すワケにはいかない。


俺は鬼へ視線を向けた。


鬼の手には俺たちのチームの紙が握られていて、綾の名前が赤い丸で囲まれていた。


どうやら、俺は本当に記憶の一部を無くしてしまっているようだ。


「待ってくれ! 俺が綾の代わりになる!!」


大きな声でそう言うと、綾が目を丸くして俺を見た。


「ダメだよ早人、なに言ってるの!?」


「そうだ、ダメだ。当たりはその女のものだ」


鬼が俺を見おろしてそう言った。


それでも、引き下がるわけにはいかない。


「殺すなら俺を殺せ! 綾を殺すなら、俺は自殺するぞ!!」


「自殺か、それはおもしろくないなぁ」


鬼が顎をさすってそう言った。


そう言うと思っていた。
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