俺様外科医との甘い攻防戦

 目を覚ますと久城先生の姿はなく、ただ着崩れた危うい格好と、微かに残る彼の香りだけが一緒に寝た事実を物語る。

 至近距離どころではない。
 事後の恋人のような寝姿に、緊張して眠れなかった。

 しばらくの間、眠れないと思っていたけれど、限界で寝落ちしてから、久城先生が起きたのだろう。
 全く気づかなかった。

 あんな風に対峙して、男女の仲になっていたかもしれない。
 けれど、そんな懸念が小さなことに思えた。
 とにかく体を休めてほしくて。

 見当違いの行動だったかもしれない。

 前に『奥村さんといたらよく眠れそう』と話していた言葉を頼りに、どうにか久城先生の役に立ちたいと思った。

『せめて三ヵ月付き合ってくれ』と言われたお試し期間ではある。

 試す側は私かもしれないが、久城先生が無理をするのは嫌だと思った。

 リビングにいくと、ローテーブルに一枚の書き置きがあった。

『久しぶりによく眠れた。ありがとう』

 走り書きを見て胸が温かくなる。

「良かった。少しは役に立てたみたい」

 寝不足ではあるが、心は満たされていくのを感じた。
< 91 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop