時雨刻
…あの方は、誘蛾灯です。
美しく高く聳え、妖しく魅力的な蒼い光で、蛾を引き寄せる_____
おびきよせられた哀れな蛾は、その光に躍り酔い、逃げられずに狂い死んでゆくのです。
今宵もまたわたくしは、あの方の皮膚が破ける音に酔しれ、嫌悪とともにえもいわれぬ快楽を得るのでしょう。
さあ、これが本当に最後。
わたくしの秘密の全容でございます。
あの隅の、色変わりの紫陽花。
あの紫陽花のお色がほかと違うのは、あそこだけ、土が肥えているからです。
季節を越えて狂い咲くのは、養分がよいからでございます。
もうお分かりでしょう。あすこには、あの方の元奥様が眠っておられます。
…でも皆さま、ようく思い出してみてください。あの紫陽花は、わたくしがここにくるまえ、すなわち、奥様を埋める前から、いまと同じ濃い蒼色をしていました。
ということは。
あそこの土は、もうずっと前から養分が違っている、ということです。
…近頃、あの方のお顔の色がすこぶるよろしくありません。
わたくしももう、力加減がきかなくなっているのかも知れません。
秋の時雨刻。
驟雨のなか、わたくしは、お庭の隅を見つめます。
近頃、感じるのです。
あの海鼠塀のむこうに、わたくしをじっと見つめる視線を。
わたくしの番が、近づいているのかもしれません。
《おわり》
美しく高く聳え、妖しく魅力的な蒼い光で、蛾を引き寄せる_____
おびきよせられた哀れな蛾は、その光に躍り酔い、逃げられずに狂い死んでゆくのです。
今宵もまたわたくしは、あの方の皮膚が破ける音に酔しれ、嫌悪とともにえもいわれぬ快楽を得るのでしょう。
さあ、これが本当に最後。
わたくしの秘密の全容でございます。
あの隅の、色変わりの紫陽花。
あの紫陽花のお色がほかと違うのは、あそこだけ、土が肥えているからです。
季節を越えて狂い咲くのは、養分がよいからでございます。
もうお分かりでしょう。あすこには、あの方の元奥様が眠っておられます。
…でも皆さま、ようく思い出してみてください。あの紫陽花は、わたくしがここにくるまえ、すなわち、奥様を埋める前から、いまと同じ濃い蒼色をしていました。
ということは。
あそこの土は、もうずっと前から養分が違っている、ということです。
…近頃、あの方のお顔の色がすこぶるよろしくありません。
わたくしももう、力加減がきかなくなっているのかも知れません。
秋の時雨刻。
驟雨のなか、わたくしは、お庭の隅を見つめます。
近頃、感じるのです。
あの海鼠塀のむこうに、わたくしをじっと見つめる視線を。
わたくしの番が、近づいているのかもしれません。
《おわり》


