時雨刻
わたくしは、己の愚かさを思い知りました。

奥方様は、自らあの方を苛んでいたのではなく、あの方に《《打たされていた》》のです。


…少し冷静になって考えれてみれば分かることだったのです。

いくら細身とはいえ、男性のあの方を女の力で押さえつけられるはずはありません。

それに、首輪はつけていたけれど、拘束はされていなかったのだから、逃げたければいつでも奥方様から逃げられた_____

だって、奥様が倒れたときも、あの方は自ら立って私の傍らにやって来たのですから。

あの方は、好んで裸になり、首輪をつけ、這いつくばっていたのです。

他でもない、
奥様のほうがむしろ、あの方の性癖の犠牲者だったのでした。

分かった時はすでに遅く。
わたくしは、すっかりあの方に囚われてしまいました。
あの方のいうとおり、他に帰るところも、逃げる術もございませんから。

そうして夜になると、鞭を持ち、元奥様と同じようにあの方を打つのです。


ところで、
皆さまは人を打ったことがおありでしょうか。

他人を傷つけるという行為は、傷つけらている方だけが傷つくのではない、傷つける側もまた、同じだけの傷をうけます。

ひとつ打つ度、正しい精神(こころ)が壊れてゆきます。
わたくしの正気が同じ数だけ削り取られてゆきます。

< 14 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop